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インナーブランディングとは?定義と目的について


組織開発やマーケティング分野でよく耳にするインナーブランディングとはいったい何なのでしょうか?また、通常のブランディングとはどう違うのでしょうか?その定義や目的について考えてみます。インナーブランディングとインターナルブランディング実は、インナーブランディングには様々な呼び方が存在しています。
【インナーブランディングの呼び名】
- インターナルブランディング
- インナーマーケティング
- インターナルマーケティング
そのため、使うシーンや使う人によって言葉が少し異なることが度々起こりうるのです。実際にはインターナルブランディングという呼び方が正しいのですが、今日の日本におけるマーケティングや組織開発の現場では、インナーブランディングの方が言葉として圧倒的に使われています。大手広告代理店などでもマーケティング活動における社内向けのブランディング活動を「インナーブランディング」と呼んでおり、「インナーブランディング」というキーワードが広まった要因の一つです。
インナーブランディングの目的





ではインナーブランディングは、何のために実施するのでしょうか?そしてどのような効果が得られるのでしょうか?インナーブランディングは「ブランドや企業の目標を実現するために、目標実現に向けた行動を社員一人ひとりが自分ゴト化すること」が目的です。



つまりインナーブランディングには、従業員や社内関係者が自ら進んで企業理念やブランドコンセプトに基づいた行動を行うことで、その結果、会社の目標達成や、ブランドが目指す価値を実現できる効果があります。企業が目指す価値を実現するには、従業員がその価値を理解し自ら積極的に価値を体現していかなければなりません。従業員一人ひとりが価値を体現し、相乗効果が生まれ、ブランド価値や企業目標が実現する状態をつくることです。それこそインナーブランディングの最終目標です。
インナーブランディングとエクスターナルブランディング


ブランドが乱立し、差別化が困難な現在においては、インナーブランディングを戦略的に行い、従業員の士気を高めるために内部のブランディングを重視する傾向です。エクスターナルブランディングは消費者に対してブランドバリューを訴えることに対し、インナーブランディングは社内に理念やビジョンを浸透させることに重きを置きます。一般的に外部(エクスターナル)と内部(インナー)は一貫性をもたせる必要がありますが、企業によっては外部へ発信するイメージと実際の内部の状況に乖離があることもあります。
対象範囲の拡大


期待する効果の変化
インナーブランディングに求める効果も、当初の「社員の意識」だけから、「意識をもった社員の行動」へと変化しています。活動の目標を「すべての社員がブランド行動を日常化させ、マーケティング活動に積極的に貢献する企業文化の構築」を活動の目標とする企業が増えています。
インナーブランディング活動の成果が期待させる業務も、製品開発から製品やサービスの品質向上・業務効率の向上・顧客対応の改善など、企業活動のすべての分野へと広がりました。また、インナーブランディング活動による社員のマーケティング貢献力の強化も、企業のマーケティング戦略を考える上で、今日欠かせないものとなっています。
インナーブランディングのデメリット





一方、インナーブランディングにはデメリットもあります。
- コストがかかる
インナーブランディングを行う最大のデメリットはコストがかかることです。当たり前ですが、インナーブランディングは無料ではできません。特にしっかりしたビジョンステートメントを作成し、社員全員で共有するには各種のリソースが必要です。特に社内にビジョンステートメント作成の知見やノウハウがない場合、外部からコンサルタントを招く必要があります。また、ビジョンステートメントそのものを作成するにもコストがかかります。
- 時間がかかる
インナーブランディングの目的と内容を検討・策定し、各種の活動を計画し、社員全員にビジョンや理念を浸透させるには相当の時間が必要です。インナーブランディングは、今日採用して明日ただちに効果が出るといった、一朝一夕に芽が出るようなものではないのです。
- 価値観を共有しない社員を排除しがち



価値観を共有しない社員を排除しがちになるのもインナーブランディングのデメリットです。社員全員で価値観を共有することがインナーブランディングの理想ですが、現実には、100%の社員が価値観を共有するのは難しいです。



一般的には、インナーブランディングで定めた価値観の共有を求めすぎると、価値観を共有しない社員を排除する機運が生じます。最近の経営戦略では人材の多様性をテーマにするケースが増えていますが、そうした機運が生じた場合、人材の多様性確保のトレンドと逆行することになります。
- バリューが不十分の場合、逆効果も
会社・製品・サービスのバリューが不十分の場合、せっかくのブランディングが逆効果になるリスクがあります。バリューが不十分とはインナーブランディングのビジョンやミッションが不明瞭であったり、実現可能性がなかったり反社会的であったりといったケースです。このような場合も、社員の共有が得られなかったり、ミッションそのものを達成できない結果に終わる可能性が高くなります。
インナーブランディングの事例





では実際のインナーブランディングの事例をみてみましょう。インナーブランディングの考え方は1990年代、米国の金融業やサービス業を中心に広まりました。顧客サービス向上を目的としたインナーブランディングの取り組みとしては、下記の企業が有名です。
- ホテルチェーンのリッツカールトンでの
- コカ・コーラの日本法人では、
- 情報処理業界
- 各種製造業
- 医薬品・食品業界
- 電力・ガス業界
- 地方公共団体
- 各種金融機関
- ホテル・旅館業界
- 運輸・不動産サービス業界
- 医療サービス業界
- 社員の顧客志向の向上
- 社員によるブランド価値の社外発信
- 仕事への誇りとやりがい向上
- 若手社員・中途採用社員の離職率低減
- 顧客満足度の向上
- 顧客視点の新製品・サービス開発
- 目指す姿の一元化による社内一体感醸成
- 合併・統合企業での社員意識の一元化
- 経営方針の社内浸透と業務活動での実践
書籍・本
かつてブランドを形成する要因は広告でしたが、デジタル時代においてはSNSや口コミによる“ブランド体験”がブランドを下支えするようになっています。本書はこのような時代ならではのブランディングの方法論をわかりやすく解説しているので、まずブランディングについて知るのに好適な一冊です。
ビジネスにおけるブランドの戦略的位置づけをどう設定するか、さらにブランドとはなにか、など各内容を整理して紹介しているので、初めてブランディングに触れる場合でも体系立てて理解できるようになっています。それだけにとどまらず、ブランディングとUXの関係についてもしっかり解説されています。その他、ブランド効果の検証、PDCAサイクルについても言及しているのもポイントです。
ブランディングそして、それに関連するデザインを一つの経営戦略とし解説しています。ブランディングについての考え方から始め、そこからデザイン=クリエイティブワークまでの流れをひとつずつ丁寧に解きほぐしています。
ちなみに、インナーブランディングについても触れています。こちらもブランディングとは何かを、これから学びたいという人の他、中小企業の経営者、もしくはそれに近い立場の人にとくにオススメしたい一冊です。ブランディングをどのように進めていくか、関係部署内の全員が読むことでブランディングをどのように進めるべきかの指針になるでしょう。
著者の松浦氏は、資生堂、キッコーマン、ネスレ、ルイ・ヴィトン、IBMなど、国内外の著名ブランドを手がけた実務家であるのみならず、10年以上にもわたり大学で教鞭をとってきた人物です。本書は松浦氏のビジネス・教育それぞれの視点から、グローバル市場での勝負に勝つための方法論を紹介してます。日本企業がグローバル市場で勝負する為の方法論を紹介する数少ない著書とも言えます。グローバルブランド作りの法則、「資生堂」を例に挙げたブランド解説といった“グローバル”に対するメインテーマのほか、これからの時代のブランド戦略の思考法などのブランド論の基本についても紹介しており、幅広いテーマを学べます。
本書はブランディングの第一人者として知られるデービッド・アーカー氏が提唱するブランドとは未来の成功の為の足場となる解説をしています。その組織の為に継続的な価値を生み出すものという理論のエッセンスを抜き出した物で、ブランディングにおける重要なフレームワークをコンパクトにまとめて解説しています。
また、ブランド構築にあたっての基本的原則が最新の事例とともにわかりやすく解説されているだけではなく、フレームワークも順序立てて解説されていますので、ブランディングにそれほど詳しくなくても読み進められる一冊です。
とにかく広告代理店頼みのプロモーション活動、と捉えられがちなブランディングの定義を、
企業活動から生み出される資産とし、インナーブランディングも交え自社で一丸となって取り組む物を解説した一冊です。上記の点から出発してブランディング全体を理解しやすいように整理されています。
ブランディングの事例として世界的に有名なコーヒー店・スターバックスを扱っているので、よりその内容を掴みやすくなっています。以前ほどモノが売れない、そして顧客中心主義となっている昨今、ブランディングの重要性をより意識させられる内容となっています。
まとめ





インナーブランディングが実践される背景には、自社や自社製品・サービスの第一の信奉者は自社自身であるべきだという考え方があります。確かに、自社や自社製品・サービスの第一の信奉者が自社自身である場合の、エクスターナルブランディングにかける熱意の量は、そうでない場合よりもはるかに大きいです。



心理学の世界では、「自らを愛せ」という古い言葉がありますが、インナーブランディングとは、その古い言葉を正しく実践しているに過ぎません。その意味で、インナーブランディングは、心理学やマーケティングを含む社会科学の世界における古くて新しいスキームのひとつなのかも知れません。